第2講  環境技術としての建築

1. 「第二の自然」としての建築―持続性

4) 「異物性」
異物としての大聖堂/モニュメントの異物性/グッゲンハイム美術館/ロトンダ/パラディアニズム/ジェファスン/エゥリュサケスの墓


ある建築の「タイプ」がその当の建物の個別的様相とあまりにも深く結びつき、それから切り離して考えることができないような状態、つまり「タイプ」の名称がその建築の名を採って呼ばれるような場合、たとえば上に述べた「パンテオン」のような場合には、そのような建物の多くは、周囲の空間に対したとき、ある種の「特異点」となるような傾向を見せる。長い時間のなかで環境に馴染むどころか、むしろ際立ってその異質性を主張するのである。従ってそれは「タイプ」としての名称以外の安易な意味付けを拒否し、「異物」として立ち続ける。ヨーロッパ中世都市のスカイラインを支配する大聖堂も、もしその宗教的役割を度外視するなら、それらは都市空間にとって「異物」に他ならない(ヴィクトル・ユゴーもそのことを否定していなかった)。それらの平面形式、ファサード、構造形式のすべてが、他の都市建築とは全く異なるユニークな「タイプ」となっているからである。あるいは逆に「異物」であることによって、その特異な宗教的性格を獲得しているのだとも言えよう。いわゆる「モニュメント」monumentと呼ばれるものの多くは、そうした「異物」性によって成り立っているのである。

建築は言うまでもなくそれぞれの時点での社会的要請によって造られるものであるが、しかしそうした社会的要請はきわめて移ろいやすいものであることも否定できない。建築の悲劇は、最も精確に人びとの要請に応えた建築が、かえってそのゆえに要請の新たな変化に応えることができずに存続を否定され、あるいはそれが担わされていた政治的意味のゆえに破壊されたりするということである。その意味で「異物」としての建築は、そうした要請への隷従を拒み続けることによって生き延びるという、逆説的な建築のあり方を示していることになり、絶えざる異議申し立てを突きつける存在として注視しなければならないのである。

フランク・ロイド・ライトFrank Lloyd Wright (1867-1959) のグッゲンハイム美術館注)1は、美術館としての致命的な欠陥を指摘されながらも、その「異物」としての姿をニューヨークの市中にさらし続けている。ヴィチェンツァ市郊外のモンテ・ベリコの丘の上に建つパッラーディオ作の「ラ・ロトンダ」La Rotonda注)2は、その敷地に対する一種の目印以上の意味を持たないが、パンテオンにも匹敵するその「タイプ」としてのユニークさのゆえに、数知れぬほどのその模作・ヴァリエーションを生み出すこととなった。ローマ市の東南、ポルタ・マッジォーレPorta Maggiore(プラエネスティーナ街道Via Praenestinaに開く門)注)3のすぐ外側に、半ば崩れた大理石貼り立方体の構築物があるが、各側面に円い9個の穴が穿たれた奇妙な姿は、まさに「異物」と言うにふさわしい。これは刻銘からウェルギリウス・エウリュサケスM. Vergilius Eurysacesなるパン屋とその妻の墓で、B.C. 30年ころの建造であることが読み取られる。丸い穴はパンを象徴したものだと言われるが、後世の人びとにとってそれがどれほどの意味を有するであろうか。われわれはただその形態の衝撃性(ややユーモラスではあるが)から、古代ローマの人々の自在な建築観に畏れを抱くのみである。


グッゲンハイム美術館Guggenheim Museum, New York, 1956-59.


「ラ・ロトンダ」(ヴィッラ・アルメリコVilla Almerico, c.1567. のちカプラCapra家の所有となり、現在はヴァルマラーナValmarana家が所有する)。パッラーディオの作品の中でも最も有名なもの。「ロトンダ」とは一般に円形の部屋ないし建物を指す言葉であるが、この建物は中央に円形広間を持つことから、すでにパッラーディオ生前からそのように呼ばれていた。パッラーディオはこの建物の図を、自分の作品と建築理論をまとめた「建築四書」I Quattro Libri dell’Architettura, Venezia 1570(桐敷真次郎訳、中央公論美術出版)に収めており、後世の建築家たちはこれをもとにその模作を試みたのであった。こうした「ロトンダ」をはじめとするパッラーディオ作品を手本とする動きは、18世紀の全西欧に広まり、「パラディアニズム」Palladianismと呼ばれている。アメリカ合衆国第三代大統領となるトマス・ジェファスンThomas Jefferson (1743-1826)も、ヴァージニア州シャーロッツヴィルCharlotsville郊外の自宅「モンティセロ」Monticelloを造るにあたって、この「ロトンダ」を下敷きにしていた。


Porta Maggiore (A.D. 38)も「異物」たるに充分な資格をそなえた建物である。その特異な「ブニャート」の仕上げが注目される。これについては第4講で触れる。

「モニュメント」の表象機能をめぐる問題については第6講で触れる。


prof.Fの
西洋建築史講義

index
§1.
建築の歴史と方法
ウィトルウィウスからヴェントゥーリまで
§2.
1.
0)
自然への介入としての建設行為/場所のイメージ/集団的記憶
1)
巨大さ/バベルの塔/出雲大社/メガロマニア/巨大さから建築を逆照射する/ダイダロス神話
2)
ピラミッド/コロッセウム/ローマ植民市の円形競技場とその遺産/パンテオン/ブレー
3)
測地学的スケール/プラエネステ/万里の長城/ガールの水道橋/トラィアヌスのマーケット/イタリアの山岳都市/レオナルドの積層都市建築/アダム兄弟のアデルフィ計画/ブルーノ・タウトのアルプス建築/Land Art/クリストの「梱包計画」/イサム・ノグチ
4)
異物としての大聖堂/モニュメントの異物性/グッゲンハイム美術館/ロトンダ/パラディアニズム/ジェファスン/エゥリュサケスの墓
2.
3.
§3.
構造物としての建築(1)
§4.
構造物としての建築(2)
§5.
建築と都市
§6.
建築と絵画
§7.
建築と文学
§8.
建築と政治
§9.
宗教と建築
§10.
社会制度・文化と建築
§11.
遊びと建築
§12.
建築と建築技術者
§13.
建築とユートピア
link
ウロボロス建築抄:Prof.Fの口演録